第6回(2020年)ジャパン・レジリエンス・アワード(強靭化大賞)グランプリ受賞 品川区中延二丁目旧同潤会地区防災街区整備事業できるまで物語品川区中延二丁目旧同潤会地区
防災街区整備事業できるまで物語

個々に「寄り添って、動く」
「85の家を創る」
「もう一度、夢を語れる場所に」

1. 事業の概要

権利者数(140名)85区画からなる防災街区整備事業
中延二丁目旧同潤会地区は、関東大震災の復興住宅として、旧同潤会により整備された戸建地区で、木造長屋を含む木造住宅が密集している地区です。そして都が推進する「木密地域不燃化10年プロジェクト」の不燃化特区先行実施地区である「東中延一・二丁目、中延二・三丁目地区」のコア事業と位置付けられています。木造住宅の密集解消を目的とした防災街区整備事業の中でも、東京都内の事例では最大クラスの権利者数(140名)85区画で形成されていました。
本地区は木造建物が9割以上、旧耐震構造の建物が8割を越え、延焼の危険性が懸念されていました。さらに地区内の道の殆どが幅2m未満で、敷地の約半数が60㎡未満の狭小敷地。しかも未接道の敷地もあり、緊急車両も侵入できない場所も多く、防災上に大きな不安を抱えていました。また4軒で1棟の長屋形式であったため、隣戸との分離が難しく、単独での建替えが困難な状況にあったのです。
防災性に大きな問題を抱えていた街並みでしたが、地上13階建て195戸のマンションとして再生。歩道状空地や、公園も整備され、安全な地区に生まれ変わっただけでなく、防災備蓄倉庫や、かまどベンチ等も備え、帰宅困難者の受入れ可能な防災拠点に生まれ変わったのです。

2. 経緯と期間

旭化成ホームズの参画
2013年 4月東京都が推進する「木密地域不燃化10年プロジェクト」の不燃化特区先行実施地区の一つとして位置付けられたこと を契機に、防災街区整備事業準備組合の組織化準備が開始されました。防災街区整備事業準備組合の設立を目的とした支援業務の簡易型プロポーザルを実施し、旭化成ホームズ株式会社が選定されました。受託以降、検討会の運営・広報活動・権利者個別対応等を通じて事業準備組合の設立準備に着手しました。
2010年10月「防災まちづくり検討会」発足。
2013年 7月事業準備組合の設立準備
2013年10月「合意形成支援業務」の発注先に旭化成を選定
2014年 3月準備組合設立
2015年 4月都市計画決定
2016年 2月組合設立
2016年12月権利変換計画認可
2019年 3月竣工引渡し

3. 事業成功の要因

防災意識の高い町会組織
当地区の準備組合メンバーは、まちづくり協議の前段階において、すでに従来からの町会としてまとまりがありました。そして合意形成に向けて積極的に住民に対応されていたこと、地区内における防災意識が高かったことなどが、事業成功の要因としてあげられます。特に準備組合の理事をはじめ役員の皆さまが町内の意見のとりまとめに積極的だったことが大きな要因です。
個々に「寄り添って、ご提案」「85の家を創る」
多くの「防災街区整備事業」は、都市の防災上必須の事業でありながら、地権者の合意形成の難しさ、複雑さから、多くの地区で事業推進が課題となっています。環境変化を心配される高齢者、相続に伴う複雑な事情、持ち主不明の空き家、借地・借家、既に建替え済の住宅など・・・。同じ区域でも地権者は各々異なる事情を持っています。対応する人員の絶対的な不足や「事業の必要性、緊急性」の説得だけでは合意形成が進まない事態が多発しているのです。
本件も私たちが参画する以前に、3年の歳月が費やされていました。ディベロッパーとして初めて合意形成支援業務を行政から直接受注した私たちは、従来のような社会的要請という「説得」、「説明」では、地域の合意形成を成し遂げることはできないと考え、地権者の皆さまひとりひとりに寄り添い、新しい住まいづくりをともに考えご提案するという新しい事業モデルを確立しました。
個々に「寄り添って、ご提案」をモットーに、私たちは長屋形式を含め85区画で形成されていた街区の再生を「85の家を創る」発想からスタートしました。
地権者の皆さまひとりひとりに寄り添い、地区内の空き家を拠点として活動。そして2世帯居住を希望する方、戸建て志向の方、既に注文住宅を建替え済みの方など個別の状況や希望、そしてそれぞれの不安を把握・解決していきました。その後、仮住まい先の内見同行、引越し業者の紹介等のサポートなども含め「85の家を創る」を実践していったのです。
同規模の再開発事業の多くが、都市計画決定から竣工まで平均10年以上を費やす中、3年間無進捗だった同地区を参画から5年半で竣工へ導き、防災街区整備事業の進展に寄与しました。
ここに実際の地権者様の実例についてご紹介いたします。
  1. ケース1
    築2年の二世帯住宅に居住されたばかりで現状の住まい心地にご満足されていたご家族。
    二世帯住宅を建てて2年しか経っておらず、自分達でお金をかけて災害対策はしたと両世帯とも事業には反対。こだわって建てた注文住宅のお話を伺うことから対話をスタート。
    まずは、建てたばかりの住宅の気に入ってらっしゃる点を伺うことで、ご要望をつかみ、移転に向け それに適した土地を探しご提案していく中で、徐々に信頼関係を構築。当初反対だったご家族も打ち合わせに参加し、どのような生活をなさりたいか、細かい要望を知ることができその度課題解決する提案を行いました。単独建替えでは確保できない地域の防災性等、事業の必要性を最終的にご納得いただき、本事業の二住戸をご取得いただきました。
  2. ケース2
    70歳代女性と50歳代娘様女性親子お2人でおすまい。
    70歳代のお母様は生活スタイルの変化が大きな不安をお持ちでした。そのため、早期段階での間取り提示、収納アドバイス等、を行い、新しい住まいの生活イメージをご理解いただき、不安を解消し・新居への期待を抱いていただくことができました。引越し・仮住まい探し、資金計画等まで個別にサポートを行いました。
  3. ケース3
    80歳代女性。
    永年の暮らしで増え続けた生活用品の多さで引越しが不安。
    早期段階で別居のご子息にアプローチ。了解をいただきながら1年以上前から引越し業者を紹介、搬出・廃棄を一緒に検討し、新マンションを取得いただく。

4. 事業成功の要因

「ジャパン・レジリエンス・アワード(強靭化大賞)2020」最高賞グランプリグッドデザイン賞受賞。
本事業は、行政とも並走しており、「災害時における帰宅困難者受入れ等に関する協定」を品川区と締結。災害時には隣接の「中延 小学校(指定避難所)」及び「中延文化センター(帰宅困難者一時滞在施設)」と連携し、集会室では、帰宅困難者を受け入れる予定です。また防災広場が隣接施設と協働する仕組みも備えた当地区は、「地域再生モデル」であると同時に地域全体で災害時対応する「新しい防災モデル」でもあります。地域再生については、地域が永く継承してきた「路地」や「通り名」をデザインとして取り込むことで、街の記憶の「再生」も実現しました。写真の防災イベントは、このような事業背景を、マンション住民のほか、地域住民にも周知し、災害時の地域の互助・共助を高めることを目的に開催されました。内容は、過去の大地震に学ぶ「防災セミナー」、消防救急隊によるAEDの利用方法などの「救命講習」、マンション敷地内の防災広場にある「かまどベンチ」「マンホールトイレ」「防災井戸」の使い方紹介のほか、かまどベンチを使った炊き出し体験も行いました。
イベントには子育て世代から年配者まで幅広く、約100名の方が参加され、大変好評をいただきました。今後は、当マンションの管理組合と管理会社「旭化成不動産コミュニティ(株)」を中心に、防災街区整備事業にふさわしい地域活動を目指して、品川区や近隣町会のご協力をいただきながら、定期的に防災イベントを開催する予定です。
個々に「寄り添って、ご提案」そして「85の家を創る」
防災街区整備、再開発事業の実現を困難とする要因は、思いもよらない移転に対する大きな不安とともに、権利者お一人おひとりにそれぞれ異なった事情があるということです。
そこで私たちが目指したのが、個々に「寄り添って、ご提案」そして「85の家を創る」
ということでした。
「もう一度、夢を語れる場所に」
愛着ある今の住まいから新しい住まいへと、更なる夢を感じていただけるように、権利者のみなさまと共に新しい住まいや街づくりを考えてきました。そして開発事業としてではなく、個々の暮らしの再生を目指してきたことが、納得して事業に賛同いただき、新しい住まいへ移ろうという決断をしていただけたものと思います。
旭化成ホームズはこれからもひとりひとりの権利者様と誠実に向き合い、共に困難を乗り越えていくことで、夢を語れる街づくり、住まいづくりに貢献してまいります。