「好立地」とは駅からの近さや利便性の高さに加え、人々に長く住み継がれ、愛される場所を指す。そこには一朝一夕には築けない歴史や文化、成熟した住環境がある。そうした街の価値を次代につなぐために、旭化成ホームズはマンション建替え事業や都市再生事業を通じて街に新たな息吹を吹き込んでいる。余地が少ない都市部の好立地で、なぜ同社が次々と付加価値の高いマンションを供給することができるのか、その秘密に迫る。
いまは都心部を中心にマンションの用地取得が困難な時代だと言われている。しかし、渋谷・新宿・港・中央・千代田区などの都心の人気エリアには、築年数が経ち老朽化が進む共同住宅がたくさん存在する。業界で先駆けてマンション建替え・等価交換・再開発事業(以下、都市再生事業)を推進してきた旭化成ホームズは、そのノウハウを生かして都内23区だけでも40棟を超える物件を次々と高付加価値な邸宅へと生まれ変わらせてきた。
「当社が供給するマンションが好立地にある理由は、そのほとんどが建替えだからです。一般的なデベロッパーが土地を購入して新たなマンションを建てるのに対し、当社は人々の生活の営みがある場所の様々な課題を解決するために新たなマンションに建て替えるという手法を取っています」と語るのは同社経営戦略部事業戦略室の逆井温子室長。住民たちの合意形成など複雑な業務が発生するため他社がなかなか手を出さない領域だからこそ、同社は次々と好立地にマンションを供給することができるということだ。日本の高度成長期に建てられ、街の発展の中で好立地となった場所の古い共同住宅を次々といまの時代にふさわしい価値を持ったマンションに蘇らせている。
都市再生事業を通して社会課題の解決をしてきた同社は、これまで千代田区3件、中央区6件、港区6件、新宿区15件、渋谷区13件など、都心部の人気エリアにマンションを供給してきた(2023年7月時点)。いずれも誰もが認める成熟した街であり、そこに住む人々が街の価値を連綿と受け継いできた場所だ。
「当社は単なる新たなマンション供給のための事業とは考えておらず、社会課題の解決のための都市再生事業と捉えています。人々が長年その場所を好んで住み続けた理由があり、そこには建物や設備の老朽化や耐震性不足などの課題があります。私たちはそこに住む人々の声に耳を傾けながら、そこにある文化を理解し、その街にふさわしい機能やデザインを備えたマンションを建てることに専念します。都心物件の様々な課題を一つひとつ解決していった結果として、好立地に物件をたくさんご提供できているのだと思います」
同社の課題解決への提案力は、建物の新たな価値を創出する。例えば、渋谷駅から代々木公園に向かう公園通りに面した「宇田川町住宅(1961年築)」は、1~3階までが店舗と事務所、4~7階は16戸の住戸で構成。住戸部分はすべてメゾネットタイプのモダンな小規模マンションだったが、築50年近く経過した建物や設備の老朽化、そしてエレベーターが無いことが深刻な問題となっていた。建替え検討時には、商業施設への転換希望や歴史と希少性のある建物への愛着から建替えに消極的な意見など、区分所有者の思いはなかなか揃わなかった。同社は個別面談を繰り返し、建替え決議は全員の賛成で成立し、「アトラス渋谷公園通り」へと生まれ変わった。
「都心部において利便性の高い好立地の多くでは人々が愛着を持って長く住み続けることを願う反面、建物や設備の老朽化や耐震性不足、バリアフリーでないなどの高齢化に向かう社会とのミスマッチが顕著になっています。私たちはその場所の歴史や文化、周辺環境を良く知る居住者の皆さん一人ひとりと向き合い、その地域の価値をさらに高めるご提案を差し上げることで合意形成を図ってきました。文化的な価値だけでなく、日当たりの良い時間帯や、敷地内から見える景観についてなど、居住者の皆さんが大切にしている価値をどう昇華させるかをテーマにデザインや機能を追求します」
「アトラス渋谷公園通り」のケースでは、重厚感ある天然石やメタリック・ガラスを組み合わせた外観はクラシカルで高級感の溢れるデザインを実現し、渋谷の街の眺望が楽しめる緑化屋上「コモンテラス」を設け、流行の街に住まう利便性を最大限に享受することのできるロケーションを活かした。
同社の都市再開発事業は「新たな人の流れの創出」という効果も生み出す。2021年に倉敷駅前に誕生した「あちてらす倉敷」は、官民一体の再開発事業として、駅前から美観地区をつなぐ新たな賑わいの拠点となり、隣接地区にも効果を波及させ、街の再生に貢献している。
「当社の強みは、そこに住む人々や新たな街づくりに関わる人々の声を聞き、街の歴史や文化を理解し、新たな街の価値を建物の機能やデザインで実現することです。また、マンションにはコミュニケーションスペースを設置し、街に住む新旧の人々の交流を促す施策なども行い、子育て世代と高齢者の交流なども生まれています」
こうして同社の都市再開発事業によって新たな息吹を得た街は、利便性や街の賑わい、資産価値など好立地としての潜在能力を上げながら、その価値を次代に継ぐ時を刻み始めている。