都心好立地でありながらマンションの老朽化や木造住宅の密集など様々な課題を抱えた地域で、旭化成不動産レジデンスの都市型マンション「ATLAS」はその課題を解決に導きながら、街に新たな価値を創出している。「ジャパン・レジリエンス・アワード(強靱化大賞)※」を受賞するなど、人や街を災害から守り、そこに上質な暮らしを提供することで、街を進化させていくその秘訣について、同社開発営業本部営業推進部営業推進室の籾井伸之室長に話を聞いた。
※一般社団法人レジリエンスジャパン推進協議会が主催する強靭な国づくり、地域づくり、人づくり、産業づくりに資する活動、技術開発、製品開発等を実施している企業・団体を評価・表彰する制度。
日本の都心には古くから人々に愛され続ける好立地がある。その多くの地域は愛されるがゆえに開発が手つかずになりがちで、木造家屋の密集や建物・設備の老朽化といった社会課題も抱えているケースが多い。旭化成不動産レジデンスは、マンション建替えや等価交換、再開発事業(以下、都市再生事業)で様々な街の価値を向上させることで、その地域が抱える課題を解決に導くことにも貢献している。
「当社は創業当時より、人々が安心して長く住み続けられる住まいづくりを変わらぬ思いで続けてきました。つまり、住まいや街の課題に対して貢献することに使命感を持っている会社です。都心の好立地には様々な課題を抱えた街があり、私たちはまず、そこの権利者様の一人ひとりに話を聞き、建て替えありきではなく、どんな未来を描こうとしているのかを知り、皆さんと一緒に再び街を活性化させる方法を探ります」
そうした社会貢献度の高い事業の代表的な事例が、都市再生事業で2021年に竣工した「アトラス築地(分譲済)」だ。従前地は関東大震災後に建てられた長屋が密集しており、火災の延焼や家屋の倒壊の危険もあった。さらに権利者の数も40人と多いなか、共有・底地・借地・借家など権利関係が複雑な状態だった。過去にこの場所での再開発の話が持ち上がってもこの権利関係が壁となって進まずにいた。
「この築地のように、都市部の多くの好立地な場所がそのポテンシャルの高さから権利関係が複雑化していてしまい、開発が進まずに取り残されています」
築地市場が閉鎖される話が持ち上がったことを期に、地元の機運も次第に高まっていったが、それだけでは開発は進まない。
「都市再生事業には権利者全員と未来を共に見据えながら合意形成へ導く手腕と、立地の潜在的価値を見抜く力が必要です。当社が都心で数々のマンション事業を成功させている理由はそこにあります。
築地は銀座からも近く、それだけでも魅力的なのですが、歴史の中で果たしてきた役割がさらに価値を高める場所です。江戸初期に埋め立て地として開発された後は武家地として発展し、歌舞伎座や築地本願寺が賑わいを呼ぶなど、常に新たな文化を発信してきました。その築地が市場の移転により、東京ドームが5つほどの場所が新たな価値を模索し始めたのです。権利者の皆さんからは築地の未来への熱意を感じ、きっとこの事業が新たな文化や価値の起点になるだろうという期待感を持って開発に臨みました」
新たに購入した入居者からは「ファミリー層を中心にシニアの方も多く、幅広いライフスタイルに合った暮らし方ができるマンションだと感じている。新旧の住民が交流することで、地域も活性化される。また、土地の歴史や文化を踏まえたモノづくりも好印象。エントランスには、建設地から発掘された江戸時代の古木を用いたベンチや、川の流れを表現したレリーフが飾られている。土地の歴史の一部を引き継いでいるような特別感がある」という声も同社に寄せられている。
人々から愛される街には、街の記憶が連綿と受け継がれてその価値が築き上げられている。同じく「ジャパン・レジリエンス・アワード」の最高賞を受賞した「アトラス品川中延(分譲済)」は、関東大震災からの復興への願いを受けて建てられた旧同潤会住宅の歴史がある街を、優れた防災機能や住民たちの新たなつながりを生み出す仕組みづくりで再び輝かせることに成功した。
「新たな街の価値とは、地域の記憶を克明にたどり、過去と現在を未来につなぐことだと考えています。どれだけ豪華なマンションを建てたとしても、その街にそぐわないものであれば街の価値は向上しません。また、その場所だけが変化するのではなく、当社のマンションができることをきっかけにその街全体が活性化することを常に目指しています。建て替え前の旧同潤会住宅やそこにお住まいの人々の記憶には関東大震災からの再生の願いがありました。ただ、時代が移り変わったことで木造住宅が密集することの危険性が高まり、建物や設備の老朽化と共に住民の皆さんがご高齢になられたことで、その街の価値が周辺地域から孤立したものとなってしまったのです。そこで当社は、社会のありとあらゆる『間』をつなぐことで再び街の価値を取り戻せると考えました」
同社は、空間・時間・人間に介在する「間」を防災や地域、街並み、居住という4つの観点でつなぐことを試みた。例えば、地域景観に配慮し周辺住民に圧迫感を与えない外観デザインや、地域の樹木を中心とした空中庭園、世代を超えた新旧住民や周辺住民との交流を促す広場、地元消防団との連携などで地域の防災拠点になる機能などをデザインし、地域価値を向上させる持続可能な、未来につなげる住宅を実現した。マンホールトイレやかまどベンチ、災害用浄水器などを備えた防災拠点の機能は、その後の各事業にも採用されている。
また、同じように周辺の街とつながることでその地域の価値向上を果たした案件が、2020年に竣工した「アトラス荻窪大田黒公園(分譲済)」だ。歴史ある住宅地である荻窪エリアのなかでも、同敷地は都内屈指の名園として知られる大田黒公園から分離・分譲された経緯を持ち、従前は旭化成の社員寮として運営されていた。寮から分譲マンションに建て替える際、旭化成グループが目指す「街と新たな絆を結び直す住まいのデザイン」を追求し、街と建築の境界線を感じさせないオープンコミュニティの醸成を実現した。こだわったのは周辺住民から愛される公園との一体感。同社の中でも、分譲マンションが街並み形成に寄与しながら街のイメージをさらに向上させる代表的な事業となった。
「当社が目指すのは、街全体をガラリと変えてしまうような開発ではなく、同じような課題を抱えた地域の中に、街の進化を象徴するようなマンションや集合住宅を建て、その街の魅力が少しずつ増していくという事業の在り方です。街の価値とは、やはり連綿と続く人々の暮らし方にあり、人々がそこでの暮らしを求めて集まってくることで向上していくのだと思います。誰もが『ここに住みたい』と憧れる地域には、そこにマッチした様々なお店やビジネスが自然と集まり、さらに街の魅力が高まっていきます。当社が好立地だと判断する基準も、そうしたポテンシャルを秘めているかどうかです。
どんなに住み心地の良い住まいや街でも、経年劣化や時代の変化と共に様々な課題が露呈してきます。人が年を重ねると共に住まいも街も経年劣化するのです。私たちの使命は、その一つひとつの課題と向き合い、そこに住まわれる人々の想いや希望に耳を傾け、皆さんに合意していただける暮らしや街の未来を考え続けることです。新たな暮らしを提案し、新たな人々がそこで暮らし始めることで、街は再び活性化していきます。これからも暮らしや街の課題に真摯に向き合い、多くの街を輝かせていきたいですね」